2018年1月1日月曜日

212 小さい昆虫の贈り物

212 小さい昆虫の贈り物 2013年夏の真っ盛り、3ヶ月検診があった。PSAは0.008、ガンの活動が停止していることを示している。
闘病生活が始まったころ、ベランダでアゲハ蝶の幼虫を見つけた。この小さな昆虫からもらった贈り物の話を紹介したい。

(一)闘病生活での出来事
 ガン闘病生活では思わざる出来事で勇気づけられた。なんとなく過ごしていると病気のことばかりを考えて滅入ってしまうものである。
 食事療法が始まってまもなく、転移したガンの影響で自分の身体でありながら自分の体でないようなそんなふわふわした状況のころだった。ベランダのパセリの鉢に蝶のキアゲハの幼虫を二匹見つけた。
 いつもなら見つかった瞬間に運命は定まっている幼虫、つまり「いもむし」だが、この時は近所に住む孫娘に「いもむし」を見せてあげようと思い、そのままにしておいた。毎日見ているとなかなか愛嬌があり、かわいいではないか。孫娘が来て、箸の先端で頭をチョンチョンと叩くと「いもむし」は怒って黄色い角を出し、上半身を立ち上げ、臭いを発している。われら人間を威嚇しているのだろう。そんな姿を見ていると、いつの間にか好きになってしまった。

 しばらくして一匹がいなくなった。翌日もう一匹がベランダの溝を歩いているところを家内が見つけた。家内は大きな声で「いもむしが家出している」「だめじゃない、ちょっとまちなさい」と言って「いもむし」をパセリの鉢に戻してやった。
 家内は「いもむし」がベランダの溝を歩いていた姿を見て、いかにも申し訳なさそうに「背中に唐草文様の風呂敷を背負って家出をしようとしている姿」に見えたそうだ。

(二)紙芝居「いもむしの家出」の誕生
 家内の「いもむしの家出」の話を聞いて、孫たちに「いもむしに家出」をテーマとした紙芝居を作ってみようと思いついた。道具は子供たちが小学生の時使っていた12色の色鉛筆である。色鉛筆が古くて悪いわけではないのだが、絵を描くのはほんとに久しぶりだからなかなか思うようには描けない。下絵を何枚も描いたり、ストーリーを変更したり、孫をどの場面に登場させるか、いろいろ考えていくと、実に楽しく闘病のことなど忘れて時間がすぐに経過していった。
 絵は下手でも孫が全員登場し、まあまあ面白く出来上がったと自画自賛している。孫たちに早く見せたくてワクワクしているうちに、段ボールで紙芝居を見せるスタンドも作ってしまった。

(三)いもむしの贈り物
 あとで思い返してみると、あの小さい「いもむし」から沢山の「贈り物」をもらったようだ。チョット整理して見ると
毎日「いもむし」を見ながらもらった楽しみ
紙芝居「いもむしの家出」を作りながら、実に楽しい時間をもてたこと
紙芝居「いもむしの家出」を孫たちに見せ、話をした時の生き生きとした反応
孫たちに爺(私のこと)の楽しい記憶を残すことができたこと

 紙芝居のエンディングは、春になってチョウがパセリに鉢に戻ってきたら「おかえり、といってあげようね」で終わっている。今、私の気持ちは「いもむし」を見ると、「おかえり、またきてね」である。「いもむし」とはガンと闘った戦友なのである。

(四)紙芝居で闘病生活も楽しい
 「いもむしの家出」のあと、紙芝居を作ることに味を占めて、毎年一作の紙芝居を作っている。
 闘病生活では十分な時間がある、紙芝居を作るには絶好の時間であった。紙芝居のおかげで、結構楽しみながら闘病生活を送れたように思う。 (2013.8.8記)

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